メイド・イン・イタリーの高級ソファといえば、まず頭に浮かぶのはカッシーナです。日本では突出した知名度を誇るカッシーナですが、本国イタリアではそのカッシーナと双璧を成す評価を持っているのが「B & B Italia」。 デザインと機能性、いずれの分野でもイタリアらしさが光るB & B Italiaは受賞歴も多々。 B & B Italiaの創業は、1966年のこと。 当時は、「C & B」という企業名でした。これは、2人の創業者のイニシャルを取ったものです。Cは、当時すでにその手腕が認められていたチェーザレ・カッシーニ。そう、かの有名なカッシーニを興した人物です。 Bは、カッシーニよりも若いピエロ・アンブロージョ・ブスネッリ。つまり、「カッシーナ&ブスネッリ」が、のちのB & B Italiaの前身となっているのです。 カッシーナはもちろん、イタリアのデザイン界における巨匠ですが、2014年に87歳で亡くなったブスネッリもまた、そのカリスマ性でよく知られた存在でした。残されたブスネッリの写真を見ても、いかにもイタリア男らしい成熟した男性の魅力が伝わってきます。哲学者のようなその風貌も、ブランドにはプラスとなっていることはまちがいありません。 ピエロ・アンブロージョ・ブスネッリは、1926年に北イタリアはロンバルディア州のメーダに生まれました。20代半ばからデザインの世界で頭角を現し、チェーザレ・カッシーナとともに会社を興したのは30代に入った頃です。 ソファをはじめとする当時の家具は、まだまだ職人技が主役の時代でした。ブスネッリはこの職人芸のノウハウを受け継ぎつつも、革新的な家具の担い手として世に躍り出たのです。テクノロジーにも重きをおくブスネッリは、特にソファに使用するポリウレタンの素材にこだわりました。 高名なデザイナーとのコラボも多く、トビア・スカルパ、マリオ・ベッリーニ、ガエターノ・ペーシェ、ルドヴィーコ・マジストレッティ、マルコ・ザヌーゾなどとともに、イタリアンデザインの黄金期を築いたとされています。 転機となったのは1973年、チェーザレ・カッシーナとたもとを分かち、B & B Italiaとして再出発してからです。 ブスネッリはその後、ソファをはじめとする家具のデザインに関しても建築的要素を重要視するようになりました。 とくに、イタリアでは公共建築も手掛けていた建築家レンツォ・ピアーノや、弱冠23歳の英国貴族出身建築家リチャード・ロジャースとともに、B & B Italiaを一大ブランドとして構築していくのです。この2人は、ブスネッリがコモ近郊のノヴェドラーテに建てた本社ビルの設計も請け負いました。 独特のセンスと卓越したその力量から、ブスネッリはイタリアンデザインのパイオニアと呼ばれるようになります。 その中で生まれた名品には、「Sity」「Domus」「Charles」などがよく知られています。 ブスネッリの実力を示すものとして、数々の受賞歴があげられます。 1972年にマリオ・ベッリーニとともに開発されたソファ「Le Bombole」は、栄誉あるコンパッソ・ドーロ賞を受賞しました。このころには、写真家のオリヴィエ―ロ・トスカーニとともに、大胆な広告でも注目を浴びています。 1974年には、ブスネッリの代表的作品となったクローゼット「Sisamo」を発表。特許も得た革新的なデザインで、1984年にふたたびコンパッソ・ドーロ賞を受賞しました。 さらに、1987年にはアントニオ・チッテーリオと組み、芸術的とも称されたソファ「Sity」で三度目のコンパッソ・ドーロ賞を獲得。 4度目となったコンパッソ・ドーロ賞は、1989年。「製品開発における科学的な研究、機能性、デザイン性が完璧に統合した企業活動」が認められての受賞でした。 21世紀に入ってからも勢いは衰えず、2012年にはスペイン人デザイナーパトリシア・ウルキオラと組んだチェア「Husk」でケルン国際家具見本市のイノヴェーションアワードを受賞。2013年には、「Tobi-Ishi」と名づけられたテーブルで、ウォールペーパーデザインアワードの勝者となっています。 20世紀も後半になると、ピエロ・アンブロージョ・ブスネッリの息子たちが、次々にB & B Italiaに携わり始めます。のちにブルスネッリ・ブラザーズと呼ばれることになる4人兄弟は、それぞれ得手とする分野で父親の右腕として活躍するようになるのです。 1990年代に、B & B Italiaが豪華客船内のインテリアに参画したのも、長男ピエリーノ・ブスネッリの戦略であったといわれています。 現在は、3代目の世代も同社の中で活躍をしており、B & B Italiaは良くも悪くも典型的なファミリービジネス企業として君臨しているといえるかもしれません。 カッシーニと比較すると知名度がイマイチのB & B Italiaですが、日本との関係も決して浅くありません。 2013年にウォールペーパーアワードを受賞したテーブルには、「Tobi-Ishi」という日本語がついていますし、近年では「Sake」と名づけられたソファも登場しています。 また、日本人デザイナー深沢直人とタッグを組んだ作品もあり。 フィロソフィーを感じるB & B Italiaのソファや家具は、深い精神性のある日本の文化ともことのほか相性が良いのかもしれません。 イタリアンデザインの代表格として成長したB & B Italia。 その特徴は、革新的な技術とデザインにあるといわれています。シンプルに見えて、飽きのこない存在感を放つ同社の家具、建築的な要素をふんだんにとりこんだ結果かもしれません。 北イタリアらしいクールでシャープなフォルムを誇りながら、存在自体は家庭の真ん中にあることがふさわしい温かさを有していることも、世界中でB & B Italiaの価値が認められたゆえんといえるでしょう。 ・Sity http://www.meetdesign.bebitalia.com/1986_sity_progetto_8.html 1987年に、栄えあるコンパッソ・ドーロ賞を受賞したB & B Italiaの代表作「Sity」。 フレキシブルに変身するこのソファ、デザイン界における「勇気ある第一歩」とも称されました。そのデザインを可能にするために、設計哲学の分野からも最新の研究が行われて、20以上の部品を駆使して完成しています。 それぞれのパーツには独自の機能的な要素がありながら、空間や環境への適応性が抜群であるという革新的なソファ。どのような形に変身しても、絶妙なバランスを保つことができる、まさにB & B Italiaの面目躍如の作品といえるでしょう。 ・Husk-Sofa https://www.bebitalia.com/en/sofa-husk-sofa スペイン人のパトリシア・ウルキオラがデザインした「Husk」は、2012年のケルン国際家具見本市の注目をかっさらった傑作です。 スペイン人らしいユーモアがふんだんに盛り込まれたHusk、女性らしい温かさと快適さでも抜きんでています。母性を感じさせるボリューム感は、まるで抱擁されているかのような錯覚を起こします。ふっくらとしたフォルムには重厚感がありますが、そこはB & B Italiaの実力の見せ所、技術力を駆使してソファは軽量化されています。エレガントとカジュアル感を併せ持っているため、女性のあいだでは絶大な人気があります。 ・Sake https://www.bebitalia.com/en/sofa-sak%C3%A9 2017年に発表されたB & B Italiaの新作「Sake」。 日本名がついているところも好ましいこのソファをデザインしたのは、建築家ピエロ・リッソーニです。 リッソーニ自身は、「Sake」についてB & B Italiaの技術だからこそ可能にした軽量が最大の特徴と語っています。そのため、「空飛ぶ絨毯のような魔法」を有したソファとも表現されています。座ったり寝転んだり、まさに平和の象徴たるべしというコンセプトのもと登場したのが、「Sake」というわけです。 また、シリーズの中にはB & B Italiaの製品の中では唯一、ソファベッドもあり。その座り心地や寝心地は、一度味わったら忘れられない絶妙なデザインです。
デザイン界におけるイタリア大使と称賛される同企業、その歴史や特徴をみていきましょう。